2009/04/27 完結
「ただいま」
仕事を終えたヤマザキヒロシは、普段どおりに帰宅した。今日の夕食は揚げ物だろうか、油の匂いが玄関まで漂っている。
「ああ、腹減ったあ」
ダイニングへ入ると同時に、ヒロシはびくりと硬直した。テーブルの傍らに見知らぬ女が腰掛けていたからだ。葬式帰りと思しき全身黒づくめのその女は、不自然なまでに青白い顔をこちらへ向けてじっとしている。
ヒロシは女に軽く会釈してから、そそくさとキッチンの奥へ行き、妻に耳打ちした。
「おい、あのお客さん、だれなんだよ。見たことない顔だけど、お前の友達とか?」
すると、妻は、怪訝そうな表情で……。
「はあ? 帰ってくるなり、なにわけわかんないこと言ってんの。お客さんなんていないわよ」
「へ?」
ヒロシは振り返りテーブルを確認した。いる。間違いなく、そこには、喪服の女が座っている。
「じゃあ、あれは?」
「あれ、って?」
妻が後ろに目を遣る。そして、すぐさま、呆れたように首を振ってみせた。
「いやあねえ。だれもいないじゃない。あなた、大丈夫?」
「だれも?! そんな、バカな」
「あらやだ、コロッケが焦げちゃうじゃないの。もう、あっち行ってて」
「………」
ヒロシは妻に背を押され、よろけながらキッチンの外へ出た。
——俺、疲れてるの、かなあ。
冷蔵庫から栄養ドリンクを取りだし、一息に飲み干す。それからダイニングを離れ、服を着替えた。
「さて、飯、飯、と……って、おいおい」
ふたたび戻ってきたヒロシの口から、太いため息が漏れ出した。
喪服の女は、まだ、そこにいる。さきほどと同じ姿勢のままで。足を揃えて椅子に腰掛け、じっと一点を見つめている。
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